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研究・調査

富山産業保健総合支援センターの調査研究コーナー

平成20年度
富山県下の小規模事業場における産業保健の現状に関する調査研究
主任研究者 富山産業保健推進センター相談員  稲寺 秀邦
共同研究者 富山産業保健推進センター相談員  大橋 信也
共同研究者 富山産業保健推進センター相談員  小杉 由起
共同研究者 富山大学医学部公衆衛生学助教   橘 信二郎
共同研究者 富山産業保健推進センター所長  加須屋 實

I 目的
   富山県内の従業員50人未満の事業場は約8,000であり、これらの事業場の産業保健の現状を把握することは、産業保健上の問題点を抽出し、有効な対応策を講じる上で重要である。本調査研究は、以下の事項を目的とした。
(1)事業場の安全衛生管理体制、産業保健の取組み状況について明らかにする。
(2)過重労働対策のひとつである長時間労働者に対する医師による面接指導制度の取組み状況を明らかにする。
(3)特定健診・特定保健指導制度についての取組み状況を明らかにする。
(4)協力要請事業場を業種、規模、地域を勘案して20社程度を選出し、直接訪問を行い、調査内容の確認、相談・助言・指導等を行う。
(5)以上の結果をとりまとめ、取組み実施の阻害要因等を分析し、さらに産業保健についてのニーズを明らかにする。
   富山産業保健推進センターでは、平成13年度に「富山県内の小規模事業場における産業保健活動の現状について」の調査研究を行っている。平成20年度の本調査研究の結果を、平成13年度の調査研究の結果と比較・検討することにより、7年間の推移を明らかにすることも試みた。

II 研究方法
対象:平成20年8月- 9月にかけて、富山県内における従業員50人未満の事業場約8,000社から、業種毎に5分の1の抽出率で無作為に約1,600社を抽出し、それらの事業場に対してアンケート用紙を送付し、記名式にて調査票を回収した。
倫理的配慮:調査票には調査目的を記すとともに、自由意志による参加であること、プライバシーを保護すること等を明記し、調査協力を依頼した。なお、本調査研究は独立行政法人労働者健康福祉機構産業保健調査研究倫理審査委員会の承認をいただいた。

〓 結果および考察
回答率:合計1,661事業場に調査票を送付し、得られた回答は556通(回収率33.5%)であった。基本情報(業種、従業員数など)が極めて不完全なものや回答がほとんど未記入のものについては割愛し、475通(28.6 %)を解析の対象として用いた。業種別では、製造業が161社と最も多く、次いで建設業153社であった。
産業保健の現状:今回回答のあった事業場と、前回回答のあった事業場は、同一ではないため単純な比較はできないが、7年前と比べ、作業環境管理・作業管理にかかる取り組みについては、全般的に改善傾向であった。
メンタルヘルス問題に遭遇した事業場の割合は、7年前と比べると微増の状態であったが、発生の予防に取り組みたいという事業場の割合は増加していた。その一方、13年度と同様に、対応については事業場では深くかかわれない、どのように取組むべきか分からないという回答が多くみられた。
過重労働対策:従業員の労働時間の把握方法については、62.5%の事業場がタイムカードを用い、30.3%の事業場は自己申告制であった。
1ヶ月当たりの時間外・休日労働時間が80時間をこえる労働者がいると回答した事業場は7%であり、健康管理を呼びかける(25.7%)、体調チェックを指導する(31.4%)などで対応している事業場がある一方、特に行っていない(31.4%)という事業場も認められた。該当者に医師や看護師等による面接指導を行うという事業場は11.4%であった。1ヶ月当たりの時間外・休日労働時間が100時間をこえる労働者がいると回答した事業場は3%であり、健康管理を呼びかける(25.0%)、体調チェックを指導する(25.0%)などで対応している事業場がある一方、特に行っていない(25.0%)という事業場も認められた。該当者に医師による面接指導を行うという事業場は31.3%であった。
特定健診・特定保健指導:特定健診については、97%の事業場で認知されていた。メタボリックシンドロームの理解度については、診断基準を知っているとする事業場が半数を超える一方、対応を知っているとする事業場は10.5%であった。全従業員のどのくらいの割合がメタボリックシンドロームに該当するかを把握している事業場は44%であった。従業員にメタボリックシンドローム該当者がいた場合、保健対策を講じる予定の事業場は28%であり、その内容については、運動・体操指導、分煙または禁煙等の回答が10%程度であった。
訪問調査:訪問調査の受け入れが可能と回答した事業場について、製造業を中心として33社の訪問調査を行った。聴取された主な意見等は以下の通りであった。
・定時の勤務だけですますと、売り上げがあがらないため、残業せざるを得ない。
・法令の遵守ができていれば良いと考えており、それ以上の余裕もないため、産業保健活動は低調とならざるを得ない。
・メンタルヘルスの問題は、どのように取組むのか分からないので、業界誌に掲載されていた民間サポートを利用している。
・1人が様々な業務を兼ねざるを得ないため、大企業に比べると、残業も多くなるし、労災等の発生確率も増加するのではないか。
・産業保健推進センターなどで様々な研修会を行っているのは有難いが、日中の昼間だけではなく、土曜日・日曜日にも開催してほしい。
・60歳が定年であるが、定年後1年毎に契約を更新している。今後も高齢者の雇用が増加すると思われるので、高齢者への対応についての相談窓口やパンフレット等があるとよい。
・事業場内でメンタルヘルスの問題が発生した時、社会保険協会、ハローワーク等に相談をしたが、対象ではないと断られた。その時、地域産業保健センター等を紹介してくれるような横の仕組みを作ってほしい。
・実際に現場で産業保健活動の指導を受けられるとうれしい。
・他の小規模事業場での産業保健活動で参考になるような雛型があれば、教えてもらいたい。
・小規模事業場なので、経営がまず重要であるが、従業員のために産業保健も充実させたいという思いもある。小規模事業場産業保健活動支援促進助成金の制度等、金銭的な補助があるものについては、情報がほしい。
地域産業保健センターの認知度については、7年前と比べて大きな差はなく、利用したいという事業場の割合も増加を認めなかった。地域産業保健センターは、従業員50人未満の事業場に対するメンタルヘルス、長時間労働者に対する面接指導制度の対応窓口として重要である。今後も地域産業保健センターの認知度を高め、活用を促進させる取り組みは重要といえよう。

IV 総括
本調査研究は、富山県下の小規模事業場の産業保健の現状を把握し、今後の産業保健活動のあり方を検討するとともに、有効な対応策をたてる上での基礎資料となると思われる。

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