平成17年度
富山県内の事業場におけるメンタルヘルスケアの取り組み状況について
主任研究者 富山産業保健推進センター 相談員 平野 正治
共同研究者 富山産業保健推進センター 相談員 角田 雅彦
富山産業保健推進センター 相談員 鏡森 定信
富山産業保健推進センター 所 長 加須屋 實
〓.はじめに:
平成12年度と平成17年度で「富山県内事業場におけるメンタルヘルスケアの取り組み状況の推移」について、アンケートによる実態調査を行った。 [ ]内は前回調査結果を示す。
〓.対象と方法:
平成12年度調査研究同様、富山産業保健推進センター(以下富山産保と記す)サービス対象事業所1447社 [1239社] 及び富山地域産業保健センター(以下地域産保と記す)登録事業所402 [360] を対象に25項目からなるアンケート調査票を送付。その結果をクロス集計分析し前回調査と比較。
調査期間:平成17年10月1日〜同年11月30日[平成12年11月1日〜平成13年3月31日]。
〓.アンケート調査結果及び考察:
1849事業所 [1599事業所] に送付、598事業所 [582事業所]が回答。回収率32.3% [36.4%] 、富山産保29.5% [40.8%]、地域産保42.2% [21.1%]。前回と比較して、従業員50人以上の事業所の回収率が有意に低かった(p<0.001)。
(1)事業所の属性は前回同様、従業員規模は50〜299人が減少し、50人未満が増加(図1)。
(2)職員配置状況は、50人未満事業所で産業医は増加、その他職種は横ばいか減少。
(3)職場の心の健康対策は51.4%[44.3%]が必要と回答し事業所規模と有意であった(図2)。
(4)心の健康づくりに取り組んでいる事業所は19.5%で、72.5%は取り組んでいなかった(図3)。
(5)取り組んでいない理由(複数回答)は、必要なかった48.5%、担当者がいない41.7%、時間的余裕がない30.2%、取り組み方がわからない25.0%、従業員に関心がない18.3%、事業主に関心がない14.6%、費用対効果に疑問8.1%(表1)。
(6)25.8%[18.2%]の事業所が心の健康相談や問題事例を経験、10.2%[5.0%]の事業所に休務者が現存した。
(7)過去5年間、自殺は24社(4.0%)・自殺未遂は8社(1.3%)が経験し事業所規模と有意であった。
(8)各種マニュアルの周知度及び利用度は、「職場における心の健康づくり」(リラックス)の周知度は41.9%で事業所規模と有意であり、利用度は7.9%でメンタルヘルス休務者と有意であった。「自殺予防マニュアル」の周知度は14.4%で、利用度は2.4%であった。「職場復帰支援の手引き」の周知度は12.8%で、利用度は2.0%であった。(図4)
図4.心の健康に関するリラックス(平12年)自殺予防(平13年)復帰支援(平14年)各マニュアルの周知度・利用度
(9)心の健康関連疾患従業員に関する業務担当職種は前回同様であった。
(10)職場復帰の社内基準は、ある10.8%、基準相当6.0%、ない79.9%で、300人未満の事業所では前回より「ない」が増加していた。
(11)過重労働に対する安衛法改正(平成18年4月)は245社(41.0%)が周知し、そのうち95社が対応し、33社は対応予定なしと回答。
(12)心の健康問題への産業医の関与は前回調査より主体的(積極的)傾向にあった。
(13)事業所・健康管理部門・主治医・家族との連携は前回調査より強化されていた。
(14)富山産業保健推進センター「心の健康問題等相談窓口」は298社(49.8%)が周知、利用した21社[18社]、利用予定15社[48社]、利用予定なし393社(65.7%)。前回調査と比較すると、「利用した」は増加するも、利用予定は減少。
(15)富山地域産業保健センター「心の相談窓口」は261社(43.6%)が周知、利用した6社[10社]、利用予定12社[50社]、利用予定なし385社(64.4%)であった。前回調査と比較すると、利用した・利用予定ともに減少していた。
おわりに
調査期間や調査項目に相違があり前回調査との単純な比較に問題はあるが、過去5年間、産業医の事業所への積極的参加や心の健康問題への主体的関与及び各部門の連携は強化され、「職場の心の健康対策の必要性」の認識は高まっている(44.3%→51.4%)。しかし、心の健康問題に取り組んでいる事業所は116社(19.4%)で、各種マニュアルやパンフレットの周知・利用度は低く、富山産業保健推進センターや富山地域産業保健センターの利用度も極めて低調だった。無料出張相談依頼も15社(2.5%)に過ぎなかった。職場ストレスや過労死・過労自殺予防対策など「職場のメンタルヘルスケア」の専門相談機関として、当該センターが今後どのような具体的活動を展開すべきか更なる検討が必要であろう。