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研究・調査

富山産業保健総合支援センターの調査研究コーナー

平成19年度
地域・職域連携推進に関わる基礎的研究 ‐地域保健側からみたX県における地域職域連携推進事業の実態と課題‐
主任研究者 富山産業保健推進センター 相談員  中林美奈子
共同研究者 富山産業保健推進センター 相談員  鏡森定信
      富山産業保健推進センター 所 長  加須屋 實

〓.はじめに
 健康づくり対策において壮中年期(25‐64歳)の早世の予防が重要な課題である。この期間にある人々の健康管理体系は健康増進法、労働安全衛生法、健康保険法等の根拠法令によって目的や対象者、事業内容が異なっており、また、それぞれの制度間の繋がりもないことから、保健指導の提供にバラツキがみられる等の問題点も指摘されており、壮中年期の健康づくり対策を強化していくためには、職域保健と地域保健が連携し、健康情報の交換のみではなく健康づくりのための実践活動を共有していくことが不可欠となっている。平成17年3月に厚労省から「地域・職域連携推進事業ガイドライン(以下、ガイドライン)」が出され、地域職域連携の必要性については浸透したように感じる。しかし、それが地域職域連携の本来の目的である「健康づくり実践活動の共有」に繋がっているのかどうか実態を調べた報告は見当たらない。本研究ではX県における地域職域連携事業(以下、単に連携事業)の実態を地域保健行政側から把握し、「健康づくり実践活動の共有」促進のための課題を抽出した。


〓.研究方法
対象:X県は人口110万人の地方都市であり、地域保健行政は県内5つの保健所管内に区分、展開されている。本研究ではX県内の全保健所および全市町村、すなわち、都道府県型保健所+支所(4+4施設)、中核市保健所+保健福祉センター(1+7施設)、市町村(14施設)の合計30施設の地域職域連携事業主担当者(以下、地域保健担当者)30人を対象とした。
調査方法:連携事業の定義とタイプを表1、表2のとおり規定した上で2回の調査を行なった。1回目は平成19年10月に郵送法による自記式質問紙調査を行った。調査票の内容は、(1)平成18年度における連携推進協議会の状況と地域保健担当者の自己評価(評価項目はガイドラインの連携会議の評価5項目を使用)、(2)平成18年度における連携事業の実施状況、(3)連携事業に対する地域保健担当者の意識とした。2回目は平成19年12月に1回目調査で「メタボリックシンドロームに関する健康づくり事業を実践した」と回答した地域保健担当者に(1)実施した健康づくり事業の概要、(2)当該事業に対する地域保健担当者の自己評価(評価項目はガイドラインの連携事業実施前のプロセス評価10項目と連携事業初期のプロセス評価5項目を使用)を聞いた。
分析方法:
全ての回答は保健所、市町村別にカテゴリデータに関しては頻度(%)、連続量データに関しては平均値(SD)を求めて記述した。
自己評価はガイドラインの評価基準に従い採点し、自己評価点を算出した。
自由記載で得た回答は類似の内容に分類しカテゴリ名をつけた。
倫理的配慮:調査票には調査の目的、自由意志による参加、プライバシー保護の約束等を記載した説明書を同封し調査協力を求めた。


〓.結果
(1)回答は全保健所(8施設)、全市町村(22施設)から得られた。回答者は全員が女性、保健師90.0%、栄養士10.0%、平均地域保健従事年数は27.6(SD7.4)年であった。

(2)X県では連携会議は保健所管内ごとに設置され、保健所が実施主体となって運営されていた。18年度に連携会議を開催したのは4保健所管内(4/5=80.0%)で、いずれの管内も年間開催回数は1回であった。連携会議の内容は、「健康づくりに関する社会資源の情報交換(3/4=75%)」、「具体的な連携事業の計画・実施・評価の報告及び検討(2/4=50.0%)」、「健診の実施状況・結果に関する情報交換(2/4=50.0%)」の順に多かった。連携会議に対する地域保健担当者の自己評価は、劣っている(53.3%)、やや劣っている(26.7%)、やや優れている(13.3%)、優れている(6.7%)であった。

(3)18年度に各事業を実施した施設は、「調査事業」3/30=10.0%、「健康づくり事業」11/30=36.7%、「全体企画としての事業」3/30=10.0%、「関係者の資質向上事業」7/30=23.3%であった。18年度に実施した「健康づくり事業」のテーマはメタボリックシンドローム(9/11=81.8%)、メンタルヘルス(8/11=72.7%)、栄養・食生活(5/11=45.5%)の順に多かった。今後実施したいテーマはメタボリックシンドローム(29/30=96.7%)、メンタルヘルス(27/30=90.0%)、たばこ(11/30=36.7%)の順に多かった。

(4)メタボリックシンドロームをテーマに実施された健康づくり事業事例(4事例)を分析した。ガイドラインに示された連携事業実施前のプロセス評価10項目、連携事業初期のプロセス評価5項目について地域保健担当者の自己評価点が高かった事例は他の事例に比べて、(1)事前打合せの期間が長く直接面接による打合せが行なわれている、(2)地域・職域それぞれに費用負担がある、(3)プログラムの目的が具体的である、(3)単発で終了していない、(4)個別指導が取り入れられている、(5)実施後に評価がなされている、(6)職域担当者と事前に面識があった、という特徴がみられた。

(5)地域保健担当者は全員が連携事業の実施が必要だと回答していた。しかし、実際に地域職域連携が取れていると思っている者は21.4%であった。また、地域職域連携に対して地域保健(自分たち)は積極的だと回答していた地域保健担当者は67.9%、職域保健は積極的だと回答していた地域保健担当者は32.0%であった。

(6)地域保健担当者が考える地域職域連携事業の課題は、(1)情報の欠落、(2)限られた人的資源、(3)認識や関心の温度差の3点であった。


〓.考察及びまとめ
 X県の地域職域連携事業に関わる地域保健担当者は全員が地域職域連携事業の実施は必要であると認識していた。しかし、地域職域連携が取れていると感じている者は2割に過ぎず、健康づくりのための実践活動の共有は全施設の4割弱でしか行われていない現状があった。他県での連携事業の実態が良くわからないので、他との比較で本結果の水準を評価することはできないが、X県の地域職域連携事業は萌芽期の段階にあるといえた。地域保健行政と職域が共同で健康づくり実践を行なっているいわゆる成功事例の特徴として、(1)事前打合せの期間が長く直接面接による打合せが行なわれている、(2)費用負担が地域・職域それぞれにある、(3)プログラムの目的が具体的である、(3)単発で終了していない、(4)個別指導が取り入れられている、(5)実施後に評価がなされている、(6)職域担当者と事前に面識があった等の要因が抽出できた。各地においてこれらの条件をどのようにして作り出していくかが今後の課題である。また、地域保健担当者は連携事業の阻害要因として、(1)情報の欠落、(2)限られた人的資源、(3)認識や関心の温度差を挙げていた。これらはすべて「コミュニケーション」にかかわっており、いかにして地域保健と職域保健の関係者がFace to Faceのコミュニケーションを持つかが、現実的な課題であると考えられた。Face to Faceの場作りの充実、例えば、保健所の連携会議、産業保健推進センターのセミナーや研修会等がそのような機能を持てるようにしていくことが必要であろう。また、本調査のプロセスを通し、個々の回答者で地域職域連携の捉え方に相違があることを感じた。職務背景や教育背景が類似した地域保健担当者であっても地域職域連携の捉え方に差があるのだから、多職種で形成される地域・職域関係者の認識の差はいかばかりであろう。そしてこのことが温度差となるのではないかと考えられた。地域職域連携事業の基盤整備として、地域職域連携の概念や原則等に関する共通理解を図るためのセミナーや研修会等の開催が産業保健推進センターの役割として必要であると考えた。

表1.地域職域連携事業の定義
地域職域連携事業とは、地域保健(保健所・市町村の健康づくり担当者)と職域保健(事業所・商工会・健康保健組合等の健康管理担当者)が労働者及びその家族の健康管理を目的に共同で行なう保健事業を指す。

表2.地域職域連携事業のタイプ
1)調査事業 地域・職域の共通課題やニーズを把握するために行う調査事業のこと
2)健康づくり事業 労働者のために地域保健と職域保健が共同して行う健康教育や健康相談のこと
3)全体企画事業 フォーラム 地域・職域が共同で休日等に体育館等の大きな会場で行う健康に関する様々なイベントのこと)
健康情報マップやポスターの作成 地域・職域それぞれが有する健康づくりに役立つ社会資源や保健事業の情報を互いに持ち寄り、1つの健康情報として集約し、マップやポスターとして住民や就業者に提供すること
4)関係者の資質向上に関する事業 保健事業マニュアルの作成 地域・職域関係者が集まり、地域職域それぞれの事業実施スタンスを確認しながらマニュアル作成を行うこと
研修会 知識・技術を共有する場となる研修事業を行うこと)を行うこと

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