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研究・調査

富山産業保健総合支援センターの調査研究コーナー

平成14年度
富山県における産業看護活動の実態
主任研究者 富山産業保健推進センター相談員 中林美奈子
共同研究者 富山産業保健推進センター所長  加須屋 實
      富山産業保健推進センター相談員 鏡森 定信
      富山産業保健推進センター相談員 柳下 慶男
      関西電力(株)保健師      小野島尚子

〓.目的
 産業保健活動の実践において看護職の果たす役割は大きく産業看護職がその機能を最大限に発揮できるよう産業保健チームの中での役割の明確化、業務遂行のためのシステムづくり等が重要な課題となっている。しかし、産業看護職の活動実態を明らかにした報告は少なく、また、当センターにおける産業看護職からの相談においても「どのような活動に重点をおけばよいか」、「上司と活動方針に食い違いがある」等の相談を受ける。活発な産業保健活動を実践するためには、各事業所内の健康管理スタッフが共通の方向性をもって各々の役割を果たすことが不可欠であり、本調査では産業看護職が行う日常業務実践の実態と今後、充実・拡大したい業務に関する産業看護職と直属上司の認識の差を明らかにした。

〓.方法
(1)対象者:本調査に先立ち対象者選定のための事前調査を実施した。調査方法は自記式質問紙調査とし、県内で従業員50人以上の1,500事業所に「看護職の有無」を問う質問紙をを配布・回収した。行政、労働衛生機関等を除く「企業」で看護職がいると回答した事業所に、これまで当センターを利用したことがある看護職の名簿を付け合わせ、49事業所を対象事業所を選定し、それらの事業所において最も中心的な看護職各事業所1名(計49名)とその直属上司各1名(計49名)を本調査の対象者とした。

(2)方法:2002年12月に郵送法による自記式質問紙調査を実施した。看護職に対する調査票の内容は、i)看護職の人数と資格、ii)看護職が関与している業務の内容、iii)業務の充実・拡大に関する認識等、上司に対する調査票の内容はi)業務の充実・拡大に関する認識等とした。業務の内容は「平成14年度全国労働衛生週間実施要領・事業場の実施事項」を参考に32項目設定し平成13年度の状況を調べた。業務の充実・拡大認識は「この業務を今後充実・拡大したいと思うか」との問いについて「そう思う」「あまり思わない」の2件法で聞いた。回答は看護職39名(79.6%)、上司31名(63.3%)から得られ、全員を分析対象者とした。

(3)分析方法:

[1]看護職の職種と人数、看護職が関与した業務について回答分布を求めた。
[2]各業務について今後充実・拡大したいと思うと回答した場合を充実・拡大認識ありとした。
[3]看護職と上司の両方から回答が得られた31組について、各業務毎に看護職の充実・拡大認識と上司の充実・拡大認識の差異をマクネマー検定により比較検討した。
[4]保健師、看護師(看護師+准看護師)別に各業務の充実・拡大認識の有無をχ2検定により比較検討した。

〓.結果

(1)回答者の属性:看護職は全員が女性、平均年齢48.4歳(SD8.5)、現在の職場での平均勤務年数は14.9年(SD10.4)であった。雇用資格は保健師9名(23.1%)、看護師18名(46.2%)、准看護師12名(30.8%)で、雇用形態は正社員21名(53.8%)、常勤嘱託12名(30.8%)、非常勤職員6名(15.4%)であった。看護職がいる事業所は製造業が71.8%と最も多く、次いで運輸交通業15.4%で、従業員数は50〜299人が43.6%、300〜999人が33.3%、1,000人以上が23.1%であった。上司は男性が24名(77.4%)、女性が名(22.6%)で、平均年齢は47.7歳(SD8.6)であった。上司は全員が事務職であった。

(2)看護職の人数39事業所に勤務する看護職は保健師15名、看護師28名、准看護師14名の計57名であった。その配置状況は保健師のみは8事業所(20.5%)、看護師のみ16事業所(41.0%)、准看護師のみ11事業所(28.2%)、保健師+看護師2事業所(5.1%)、看護師+准看護師1事業所(2.6%)、保健師+看護師+准看護師1事業所(2.6%)であった。

(3)看護職が関与した業務:看護師が「関与した」と回答した割合が最も高い業務は「健康診断後の事後措置の実施」97.4%で、次いで「要医療・要観察者への支援」94.9%、「健康相談・保健指導の実施」92.3%、「健康診断の企画」87.2%、「健康診断の実施」87.2%であった。

(4)看護職と上司の充実・拡大認識の比較:両者において回答分布に差(不一致)があった業務は4業務であった。すなわち、看護職の充実・拡大認識は高いが上司では低い業務は「VDT健康障害予防対策」、「産業保健計画作成」、「腰痛予防対策」であった。反対に、上司の充実・拡大認識は高いが看護職では低い業務は「騒音対策」であった。28業務に関しては両者の回答分布に差が見られなかった(一致)。一致した業務についてみると、一致の状況が「充実・拡大したい」で一致していた割合が最も高い業務は「地域連携」53.8%(31組中14組)で、次いで「こころの健康づくり対策」19.4%、「要医療・要観察者への支援」16.1%、「健康教育の企画」16.1%、「過重労働による健康障害予防対策」16.1%であった。反対に「充実・拡充は必要ではない」で一致していた割合が高い業務は「健康診断の企画」93.1%、「エイズ対策」93.5%、「粉塵対策」93.5%、「化学物質健康障害予防対策」93.5%であった。

(5)保健師と看護師の充実・拡大認識の比較看護師に比べ保健師の充実・拡大認識が有意に高い業務は「健康相談・保健指導の実施」「VDT健康障害予防対策」、「健康教育の実施」、「職場巡視」、「要医療・要観察者への支援」、「作業環境の改善」、「健康診断の事後措置の実施」であった。保健師に比べ看護師の充実・拡大認識が有意に高い業務は見られなかった。


〓.考察

 看護職と上司の充実・拡大認識の比較において両者間で回答分布に有意な差がある業務は4業務と少なく、このことは、各業務において両者が概ね同じ方向性を指向していることを示していた。今後は両者共に充実・拡大認識が高い業務を中心に活発な産業保健活動を展開することが重要であるが、一方で、これらの業務は現状において看護職が関与している業務の上位ではない。つまり、これらの業務ついて看護職は充実・拡大したいと思う反面、実践し難いと感じているとも推察でき、今後は看護職がこれらの業務を実践していけるように教育・研修や情報提供の充実を図っていく必要があると考えられた。また、共に充実・拡大認識が低いと言う点で一致している業務については、現行活動で充分になされているから充実・拡大が不要なのか、充分な業務遂行はできていないが不要なのか等の質的検討を加え今後さらに検討していきたい。
 看護職間においても充実・拡大認識に差異が見られた。すなわち看護師・准看護師に比べ保健師の方が充実・拡大したいという認識を持つ業務が多かった。これは、一般的に産業看護学が保健師養成課程で教育されるため、保健師の方がより産業看護のあるべき姿を明確化しているためであると考えられた。このことは、同じ看護職といえども養成教育の違いを考慮した研修プログラムの必要性を示していた。
 以上より、本調査の対象事業所においては看護職と上司が概ね同じ指向性を持って産業保健活動に取り組んでいる実態が明らかになった。さらなる活性化のためには産業看護職を支援する教育研修システムづくりが今後の課題となる。

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