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研究・調査

富山産業保健総合支援センターの調査研究コーナー

平成10年度
腰痛対策におけるメンタルヘルス要因に関する研究
主任研究者 富山産業保健推進センター 相談員 市堰 英之
共同研究者      〃        所 長 宇野 義知
           〃       相談員 平野 正治
           〃       相談員 柳下 慶男
           〃       相談員 篁  靖男
           〃       相談員 橋本 栄一
           〃       相談員 金  清
           〃       相談員 村上 千恵子
           〃       相談員 青島 恵子
      富山医科薬科大学保健医学 講師  そうけ島 茂

1.はじめに
 産業保健における腰痛対策は、筋・運動骨格系の労働作業負荷の実態にそって充実されてきている。しかし、従来腰痛との関連で取り上げられた身体作業に加えて生涯福祉の充実や高齢化社会を反映し、介護業務に関するものも問題となってきている。
 また、事務作業でかえって腰痛の多いことなどストレス社会の現状を反映してメンタルへルス要因が重要になるなど、腰痛対策もますます複雑化してきている。
 近年になって職業及び生活関連心理ストレスの概念も整理され、現場の調査においてもこれを利用した調査分析が可能になってきたので、今回は事務的作業者や肉体労働者および介護業務等の職域を対象に作業および生活に関連した心理ストレスと腰痛について各職域の実態を比較検討しメンタルヘルス要因を加えた包括的腰痛対策に関する知見を得ることを目的とする。

2.対象と方法
 富山県内の一般企業及び福祉施設に勤務する従業員を対象に、メンタルヘルスに関してはGHQ及びSF36の設問と腰痛症状に関する設問のアンケート調査を無記名で行った。推定回収率は80%で、回収総数は803人分であった。
 その調査結果をGHQの設問は総得点と身体的症状不安と不眠、社会的活動障害、うつ状態のスコアを出し、総得点で健康群・非健康群に、それ以外の4つのスコアは健康、軽度障害、中度以上障害の3群に分類した。SF36も8つのスケール分類及び2つのサマリー分類を行い(値が高いほど状態が良好)、腰痛の程度は日本整形外科学会腰痛点数(JOAスコア)を用いてこれらとの関連や、作業形態別の比較検討を行った。

3.結果と考察
 職種の分布は事務職185人(23.4%)、販売職21人(2.7%)、現場作業職192人(24.2%)、技術・専門職103人(13.0%)、看護・介護職232人(29.3%)、管理職27(3.4%)、その他32人(4.0%)であった。
 全体のGHQの総得点では健康群603人(77.7%)、非健康群173人(22.3%)。身体的症状は健康群365人(47.0%)軽度障害群203人(26.2%)、中度以上障害群208人(26.8%)。不安と不眠は健康群425人(54.8%)、軽度障害群198人(25.5%)、中度以上障害群153人(19.7%)。社会的活動障害は健康群630人(81.2%)、軽度障害群92人(11.9%)、中度以上障害群54人(7.0%)という分布で、社会的症状やメンタルヘルスな症状より身体的な症状が悪いものが多かった。
 SF36の8つのスケール分類と腰痛スコアの相関係数(有意確立は全てp<0.001)は、
 Physical Functioning (r=〓0.47)
 Role〓Physical        (r=〓0.33)
 Bodily Pain          (r=〓0.51)
 General Health       (r=〓0.33)
 Vitarity             (r=〓0.29)
 Social Functioning   (r=〓0.24)
 Roie〓Emotional       (r=〓0.19)
 Mental Health        (r=〓0.29)
 
 SF36の2つサマリー分類と腰痛スコアの相関係数及び有意確立は、
 Physical Health Score(r=-0.55,p<0.001)
 Mental Health Score  (r=-0.31,p<0.001)
で身体の健康状態の法が腰痛と相関が強かったが精神状態も強く腰痛と関連してた。これらの結果はGHQの方が相関係数は小さな値であった。
 主要職種別のSF36及び腰痛の程度の比較結果は票1のように、身体健康度は職種では事務職・看護・介護職・現場作業者順で高かったが、腰痛スコアも同様であった。また、健康度にGHQを用いた場合も同様の結果であった。

表1.職種別の身体・精神健康度及び腰痛スコア
職種 身体健康度 精神健康度 腰痛スコア
事務職 79.2(12.2) 74.66(15.6) 21.0(2.5)
現場作業職 74.2(14.9) 72.0(17.0) 20.1(3.1)
看護・介護職 76.2(14.8) 72.9 (17.9) 20.6(2.7)
分散分析結果(F検定)  p<0.01        N.S.         p<0.05
表内の数値は平均値(標準偏差値)、人数は前述、N.S:有意義なし

表2にストレスの程度と腰痛スコアの関係を示す。


表2.ストレスの程度と腰痛スコアの関係
ストレスの程度 人数 腰痛スコア
全くストレスを感じない 90人 21.8(1.9)
あまりストレスを感じない 312人 21.1(2.2)
たまにストレスを感じる 288人 20.0(3.2)
たびたびストレスを感じる 85人 19.2(3.8)
分散分析結果(F検定)           p<0.001

 ストレスを感じる程度が大きくなるに従って有意に腰痛の程度が悪く、個人差も大きくなっていた。

4.まとめ
 GHQとSF36の2種類の設問を用いて身体・精神的の表かを行い、腰痛との関係及び職種での違いを検討した結果、身体健康度の方が腰痛と強く関連しており、職種でも格差があり、職種に緒応じた対応の必要性が示唆された。一方では精神偏高度も腰痛と深く関係しており、かつ職種で格差が無かったことから、身体的健康の向上の他に全ての職種においてのメンタルヘルスの向上が腰痛対策に必要である事が示された。

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