平成10年度
THPを指向した労働態様と睡眠に関する研究
主任研究者 富山産業保健推進センター 相談員 鏡森 定信
共同研究者 〃 所 長 宇野 義知
〃 相談員 三川 正人
〃 相談員 藤澤 貞志
〃 相談員 室 一
〃 相談員 川向 文夫
富山医薬大第2内科 講 師 麻野井 秀次
富山県厚生部国際健康プラザ 建設主幹 垣内 孝子
1.はじめに
トータルヘルスプロモーション(THP)のなかで、睡眠を職域の特性として交替制勤務との関連でとらえて、睡眠と健康との関連性を明らかにする。
さらに、よい睡眠の導入に配慮する職域環境を明らかにする。
2.対象と方法
3交替勤務制の某工場男性労働者514名(平均年齢37.8歳、標準偏差9.7)を対象とした。昼間勤務明けの睡眠後に、健康関連QOLlの質問票(SF36(文献1)と睡眠感評定のためのOSA睡眠調査票(文献2)とを実施し、睡眠感と主観的健康度との関連性を、年齢で制御した偏相関係数で評価した。
次に、深夜勤務明けにOSA睡眠調査票を再度実施し、睡眠感のスコアの平均値の差の有無について対応のあるt検定で調べた。質問票の実施と並行して、6名の被検者(25歳〜30歳)にホルター心電図と温湿度モニターを携帯してもらい、心拍変動スペクトル解析によって昼勤時と深夜勤時の自律神経系の活動性の変動を調べた。
3.結果と考察
SF36、OSA睡眠調査票、および睡眠時間数についての質問に全て回答した390名(76%)について得られた変相関係数マトリックスを表1(省略)に示した。睡眠感の良好さと健康関連 QOLの良好さとは大半の組み合わせで相関を呈していた。睡眠時間数は吸い民間の因子のなかでぐっすり感(総合的睡眠)や寝つきの因子と関連していたが、健康関連QOLとは有意な相関がなかった。従って、睡眠時間以外の睡眠関連要因が主観的健康感に影響を及ぼしていると考えられた。
交替制勤務による睡眠感の変化を表2(省略)に示した。睡眠感の因子の中ですっきり感(ねむ気)の因子の平均スコアが、昼勤後に比べて深夜勤後で悪化していた。また平均睡眠時間が深夜勤後で2時間延長していた。深夜勤務による睡眠の質の悪化の存在が示唆された。
昼勤時の労働中と昼勤後の睡眠中の副交感神経活動性と交感神経活動性の水準を不快指数カテゴリーとの関連で図1.1から図2.2に示した。(図省略)
不快指数が上昇すると、量反応性に昼勤時の副交換神経活動性が低下傾向にあり(図1.1)(省略)、同じく交感神経活動性が上昇傾向に(図1.2)(省略)にあった。しかし、夜勤時にはそのような量反応性が崩壊し、(図1.2および図2.2)、自律神経系の失調傾向が示された。深夜勤時の睡眠感の悪化が温湿度環境への自律神経系の適応の乱れによることが示唆される。深夜勤時の不快指数を制御することが睡眠感の改善や健康感の改善をもたらす可能性がある。
4.結論
良好な睡眠は健康度を改善する。良好な睡眠を得るために深夜勤務前後の温湿度環境の改善が有効であることが示唆された。
5.文献
[1]Ware JE,et al.SF-36 Physical and Menntal Health Summary Scalea:A User’s Manual.Boston:Health AssessmentLab,New England Medical Center,1994.
[2]小栗 貢,その他.OSA睡眠調査票の開発:睡眠感評定のための統計的尺度構成と標準化, 精神医学 1985;27(7):791-799