平成9年度
中小企業における作業環境および健康管理の改善に関する調査研究
主任研究者 富山産業保健推進センター相談員 篁 靖男
共同研究者 〃 所長 広瀬 友二
〃 相談員 鏡森 定信
〃 相談員 青島 恵子
〃 相談員 藤沢 貞志
〃 相談員 金 清
〃 相談員 三川 正人
〃 相談員 室 一
〃 相談員 川向 文夫
富山医科薬科大学講習衛生学 加須屋 実
1.はじめに
減少傾向にあるも、依然後をたたない労働災害や作業関連疾患の発生の問題は特に中小企業にとって大変に大きな問題である。
一方、健康診断を受けていながら突然死や成人病(生活習慣病)の進行などが中小企業においても見られる。これらの問題点を企業の規模別及び業種別に比較検討を行い、地域における中小企業の実態にもとづいた対策を考える。
2.対象と方法
富山地域産業保健センター管内の中小企業595社を対象に実態を記してもらうために、無記名方式のアンケート用紙を送付し、その内の約半数の50.1%にあたる295社{うち従業員数50人未満36社及び50人以上100人未満119社を小規模企業、 100人以上200人未満85社及び200人以上50社を中規模企業とした(従業員数不明の企業が5社あった)}から有効な加いつを得た。
統計検定は平均値についてはt検定、クロス表についてはX2検定を用いた。
3.結果と考察
3.1労働体系の業種別及び規模別比較
(1)業種別回収数は農林水産業1社、建設業27社、製造業103社、運輸通信業24社、電気・ガス・水道業6社(以上の4つの業種を製造系業種と定義した)、卸売・小売・飲酒業50社、金融業・不動産業9社、サービス業40社、その他の業種35社(以上5つの業種を非製造業種とした)であった。
(2)1週間の労働時間は製造業系が39.6(標準偏差;SD 1.5)時間、非製造業系が39.0(SD 3.2)時間で、5%有意で製造系の方が長く、1%有意で非製造系の方がバラツキが大きかった。
(3)パート従業員が全従業員に占める割合の平均は製造系が9.9(SD18.4)%、非製造系が17.0(SD 22.9)%であり、1%有意で非製造系の方が高率であった。一方、50歳以上の者が従業員に占める割合は製造系が29.5(SD 19.6)%、非製造系が24.9(SD19.2)%、5%有意で製造系の方が高率であった。なお、企業の規模別では前述の(1)〜(3)の項目に有意差はなかった。
(4)深夜労働のある企業は48.5%、休日労働のある企業は63.9%であり、両者とも製造系の1%有意で高率であった(率にして25%)。
また、時間外労働は91.8%の企業で行われており、製造系の企業が5%有意で高率であった。これらの項目についても規模別では有意な差異は無かった。
3.2健康診断の業種別及び規模別比較
(1)検診内容では98.6%が定期健診(労働安全衛生法)を実施し,業種及び企業規模別では有意な差異は無かった。また、特殊健診は29.2%の企業で実施されており、実施率は1%有意で製造系の企業が高率(約4倍)であった。
(2)健診の実施場所では84%が健診機関であり、1%有意で製造系の企業が高率であった。規模別では差異は無かった。
(3)問診の記入では、84%が自分で記入、34%が健診機関でも記入し、必ず記入するように指導している企業は35%であり、これらには業種別・規模別で差異はなかった。
(4)診察時健診医は86%が健診機関の医師で、36.4%が産業医であった。また、健診実施内容ではガン検診と言われる胃透視65.8%、検便54.2%、腹部超音波診断15.7%と低かった。これらも業種別・規模別で差異は無かった。
(5)健診結果は93.9%の企業が全従業員に報告していた。また、健診事後指導は35%が産業医、24%が健診機関の医師である一方で16%が全くしていない実態があった。これらは業種別・規模別で差異は無かった。
(6)精密検査対象者の精密検査実施率70%以下の企業が41%もあった。これは業種別・規模別で差異はなかった。
(7)検診後1年以内に入院・手術をした者がいた企業は28%あり、うち32%が健診でチェックされていなかった。これは業種別・規模別で差異は無かった。
3.3産業衛生管理体制の業種別及び規模別比較
(1)安全衛生委員会の設置率は58.7%であった。これは1%有意で製造系の企業で効率であった(78%)。また、5%有意で小規模の企業で低率であった(50%)。
(2)THPの実施率は14%と低かった。これは業種別・規模別では差異は無かった。
(3)職場で多い疾患は、腰痛(71%)、高血圧(52%)糖尿病(29%)、胃炎・胃潰瘍(21%)、肝臓病(13%)の順であった。これらは業種別・規模別で大きな差異は無かった。
(4)労働災害は36%の企業で発生したと回答しており、発生率は1%有意で製造系の企業で高率であった(52%)。また、その91%が報告されていた。
(5)職場環境の留意点は照明(62%)、産業廃棄物処理(35%)、騒音(35%)、高温(31%)、粉塵(31%)、低温(28%)、ガス・溶剤(21%)の順であった。
(6)環境測定の実施率は40.8%で1%有意で製造系の企業に実施率が高かったが(55%)、規模別では差異がなかった。
(7)環境測定の結果は管理区分1が55.8%、管理区分2又は3があったが改善している11.3%で、これらは1%有意で製造系の企業が高率であったが規模別では差異が無かった。また、費用がかかるので改善できないという回答が5%あった。
4.まとめ
全体の結論として、製造系企業の方が労働環境が悪いが、健康診断を通した対処では非製造業と差異があまりなく、さらなる努力が必要であることが示された。
また、産業衛生管理体制については、規模を問わず、全般的に産業医や衛生管理者の関与が足りないように思われ、特に配慮が必要であることが示された。
勿論、これらの結果を応用しても労働災害や職業関連疾患を根絶するのは難しいものであるが、いかにしてそれらの発生を減らしていけばよいかという教育・指導に関与する一助を得られたと考えられる。