儲けだけでは事業は持続しない ー企業における人権リスクマネージメント
5月にS病院の役員会の監査報告で、監事のS弁護士さんが、病院の持続可能性の点から労務管理に言及された。職員との対話を進め働き易さに配慮した経営が進んでいると事例を挙げての 報告だった。監査報告は儀式的なものと思ってきた私は大変心打たれた。
ビジネスと人権の推進者であった富士ゼロックスの相談役(特別顧問)の有馬利夫氏は、「企業の価値は、業績や株価だけでなく、環境や貧困、人権、労働などへの対応も含めて考えないといけない。いくら儲けても、それだけで企業が持続可能ではないことに気付いた」と述べたという。まさに企業が取り組むSDGsである。
S弁護士さんは、ご自身のコラムに国際的に問題となっているサプライチェーンでの強制労働や児童労働が絡んだ事案、企業内の苦情処理体制の構築が不十分なことからくる人権侵害などにふれ、社会的責任(CSR)や持続可能性を損なう危機が生じており、中でも人権リスクは、企業のリスクマネージメントにとって重要な今日的課題だと強調しておられる。
産業保健でもパワハラなど人権に関わる事案の対処と共に、人権を生かす体制整備のためにも、その弁護士さんの薦める2010年に発効したISO26000(企業や団体の社会的責任の規格)、2011年に国連人権理事会が採択した「ビジネスと人権に関する指導原則」などの学びも深めたい。