【リレーコラム】/Dr.K

化学物質過敏症の判例にみる「予防原則」 ―

 某分析会社で、建材等の石綿分析から始まり、5年後に薬品や特定化学物質、鉛、有機溶剤の検査や屋内作業環境測定をするようになったヘビー・スモーカーの男性が、その後1年位で心身に様々な重篤な異常が出るようになり、事務室勤務に配置換えになった。しかし、病状は治まらず正社員からアルバイトになり勤務を継続した。その後受診した某国立病院のアレルギー専門医は、分析業務で症状が発症悪化し、帰宅で改善を繰り返し、受診時にハイター、トナー、マジックインク、ウレタン、スチレン加工紙などに反応するので化学物質過敏症と診断した。この過敏症では、原因物質を特定できないどころか、次々と別の化学物質にも反応する「多種化学物質過敏症」に至り、原因物質の確定は至難である。企業は因果関係不明を盾に争ったが、判決は労災補償の適応とした。
 1992年、ブラジルのリオ・デ・ジャネイロでの環境と開発に関する国際連合会議(UNCED)で予防原則(prevention principle)が宣言され、「科学的に因果関係が十分証明されない状況でも、予防的な規制措置の採用」を勧告している。欧州ではこの線に沿って、「電磁波過敏症」で労働者救済の判決が次々出たのを思い出す。
 足尾鉱毒、Cdや有機水銀が分かるまで認定されなかったイ病と水俣病、大気汚染にストップをかけた四日市公害裁判など、日本には「予防原則」の制定に至る苦難な歴史がある。

(Dr.K鏡森定信(相談員)2025年4月)

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