【所長のコラム】/鏡森定信

森を見れば木がみえず、木を見れば森が見えず ―事業所での前立腺がんPSA検診―

 当センターが開設されてから30年位になるが、この7月に奥村昌央泌尿器科医による泌尿器をテーマにした産業医研修会を初めて持った。
排尿障害、泌尿器がん、更年期障害など多岐にわたり自験例を含めた内容で、満席となった研修参加者からも事後アンケートで有益との評価を受けた。事業所検診に関心のある私は、PSA検査の優先度に①50歳以上と②家族歴があがったことに気がひかれた。
 ご存じのように我が国の泌尿器科学会ではPSA検診を広く推奨しているが、米国では受検希望者と医師との個別相談を経て受検を決めるよう制約されている。米国の関連学術団体の考えを概括すれば、「PSA検診で発見され治療を受けた集団と対照の追跡調査で総死因の死亡率を比較しても有意な差がなかった。」がそのコアにあるようである。前立腺がんで死を免れた人あったとしてもその他の原因で亡くなる場合の方がはるかに多いとこのようなになる(森を見る)。また、死後解剖では死因とならなかった前立腺がんが20~30%程度にみられたとの報告も重視されており、治療による障害も含めて70歳以上の検診は推奨されてない。
 一方、我が国の泌尿器科学会のこれへの反論では、「検診を受けたことで助かった人(木を見る)の恩恵の軽視」が強調されているし、75歳での手術のバリアはあるが検診の年齢制限はない。
 この両者の考えの違いには、検診の有効性や副作用は勿論、医療経済的な視点も絡んでくる。どの人の命も同じように大事だが、さりとて万人を救えて副作用の全くない検査や治療はない。
 私たちは、森も木も見るように日々奮戦していることに改めて思いをはせた。

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