【所長コラム】鏡森定信

仕事量は労働生産性に比例するか?

 参議院の予算委員会で働き方改革に関して概ね以下に記すようなやり取りがあったとH新聞の社説が伝えていた。
「スーパーのレジ係が二倍速で仕事したら、スーパーの労働生産性は上がるか?」とのO議員の 問に対して、総理は「上がると考える」と答えた。するとその議員は「レジが倍速になってもスーパーの売上は増えない」と返した。客の購買力が伸びていない現状ではそうはならないとの指摘であった。労働衛生的には、タイプの二倍速打ちの負担増による心身へのマイナス要因も考えなければならない。働き方に関して考えさせられる社説である。
 筆者が卒業した昭和40年台の経済成長期には、タイプ打ち作業の導入・普及が急速に進んだ。腱鞘炎の多発が社会問題となった。例えば、銀行ではタイプ打ちで多くの腱鞘炎被害者を出した。まだ、その被害が認知されておらず今日のような作業規制も無かった。傷められた心身のために、出勤してタイプ室に入るだけで肩・上腕がこわばり指がしびれるような銀行員にも遭遇した。当時は「反射性交感神経症」と呼び、頸部の交感神経節ブロックなどの治療も行った。こんな状況下で自殺した労働者もでた。銀行の生産性は上がっただろうが?
 「労力と投入物をより少なくして、より多くの価値を生み出すこと」と定義される労働生産性であるが、単に両者の関係だけでなくそれを取り巻く人と社会環境についてもうんと思いを馳せる必要がある。

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